鼻毛真拳伝承者に、俺はなる!

30 歳を超えたあたりから、鼻毛とか眉毛が突然伸びてきませんか?腕の内側とか、普段薄いはずの場所にも出てきます。
全身の毛は 20 代後半くらいまで全体的によく伸びる気がしますが、30 代頃になるとその中の数本が、リミッターが解除されたかのようにぐんぐん伸びる事があります。リミットブレイクしている鼻毛とか。あれ何なんでしょうか?
毛周期の乱れでした
引用元: 脱毛症 Q1 - 皮膚科 Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
毛は成長期 → 退行期 → 休止期 → 脱毛という流れで生まれて死んでいきます。長く伸びる髪の毛は数年の成長期がありますが、鼻毛や眉毛などは 1〜2 ヶ月で成長が止まります。腕毛も同様です。
ところが、毛周期を制御する遺伝子にエラーがあると、成長期が長くなってしまい、毛が成長し続けてリミッターが外れたような毛になる…というわけです。
なんで毛周期の乱れが起きるの?
いろいろあるみたいですが、加齢でコントロールの効きが悪くなる、紫外線とかの肌ストレス、ホルモン環境の変化、などの理由が混ざって起きるらしいです。
老化でアクセルとブレーキが故障する
毛包には「生やせ」と「休め」のスイッチがあり、このバランスで毛の長さが決まります。加齢で「休め」スイッチが壊れると、成長期が異常に長くなり、1 本だけ長い毛になります。
具体的には、細胞の制御のために「Wnt(アクセル役)」と「BMP(ブレーキ役)」という 2 つの主要な信号を使っていて、加齢が進むにつれてこのアクセル役が「異常に活性化する」ことがあるそうです。また、それが全身の組織機能低下や老化を促進することもわかってきています。
引用元: 一般社団法人 日本老年医学会: 老年医学の展望 - Wnt シグナルによる老化制御
鼻毛や眉毛でも同様に、加齢に伴いこの Wnt シグナルが過剰に働き続けたり、ブレーキ役の BMP シグナルが弱まったりする「制御のエラー」が生じて、毛周期の乱れに繋がっているものと考えられます。
細胞分裂する時に遺伝子情報をコピーしますが、そこでちょっとずつエラーが溜まって…つまりちょっとズレた感じの毛包になっていき、ズレのしきい値が超えたらめっちゃ伸びる毛が爆誕するようです。
加齢による制御劣化+累積ダメージ。生物として元気で若いうちはあまりこういう事が起きないので、年取るのっていろいろ大変ですね。腕とか足ならまだいいんですが、眉毛とか鼻毛でこれやられると、メンテする方も大変です。「ま〜たリミッター外れちゃったの〜?」と思いながら抜いています。
ちなみに、抜いても同じ場所からまた同じように生えてきます。 毛を生産している細胞が遺伝子情報を持っていますが、毛を抜いてもその細胞が残っているためで、また毛を作り出すときに以前と同じ毛を作ってしまう…という理由です。細胞は毛穴の根元ではなく、皮脂腺や汗腺みたいに毛穴の横に付いています。
一度変異した遺伝子は戻らないため、リミットブレイク鼻毛とは長い付き合いをすることになります。加齢つらすぎ。
毛の育ち方
ところで、毛を抜くと根元が丸く膨らんでますよね?あれは毛根なんですが、毛根を包んでいる部分を「毛包」と呼びます。毛は毛包の中で血液から栄養をもらって、すくすくと育ちます。
毛をすくすくと育てているのは毛母細胞です。毛の母。つまり母母母ー母母・母ー母母。
毛母細胞は毛の生産工場みたいなもので、せっせと毛を作ります。毛周期の図にあるように、毛母細胞は毛包に移住し、そこで毛が生まれ、育ち、そして死んでいった(幹細胞は生きてる)。
成長期が長いほど毛も長くなります。髪の毛の成長期は数年ほどあるので長く伸ばすことができます。髪の毛以外の毛はそれぞれ適切な長さになるよう成長期が設定されていて、数ミリ〜数センチで止まります。長さに個人差はありますが、それでもみんな、だいたい一定の長さですよね。
成長期が終わると退行期を経て休止期になり、毛根が浅くなって抜けやすい状態になります。ブラッシングなどで抜け落ちたり、切れたりしてその生涯を終えます。
ちなみに、少し上に出てきた「遺伝子の記憶を持つ細胞」は毛包幹細胞という名前です。毛母細胞が工場とすれば、毛包幹細胞は設計者の役割を持っており、そこの設計図が間違っていると、間違った状態の毛が生産されてしまう、というわけですね。幹細胞はバルジ領域の中にあるそうです。
男性ホルモンでよく成長します
男性ホルモンで有名なテストステロンがあります。思春期頃に出始めて、声変わりや筋力強化、陰毛とか脇毛を生やします。テストステロンは毛の根元、毛包で変換されて「ジヒドロテストステロン」というホルモンに変わります(名前が長いので DHT と略されることが多いです)。
ジヒドロテストステロンは毛包の発毛スイッチを押す効果があり、特にこのホルモンへの感度の高いヒゲなどは強く影響を受けて、太くて硬い毛を生産し始めます。テストステロンが増える → 毛が増える → 毛の根元でジヒドロ…に変換される → スイッチが押されて毛が伸びる、という順番になっています。声変わりしてからヒゲが生える、という順番はこれが原因なんですね。
ホルモンは血液に乗って全身に行き渡っているので、ホルモンが生産されると全身に影響があります。しかし発毛スイッチの方にも種類があり、ホルモンによく反応するもの、それほどでもないもの、などのグラデーションになっているようです。毛包側にも感受性があるんですね。
鼻毛リミットブレイクはホルモンの関係で男の方が多いです
毛包の感受性は、普通であれば部位によって足並みが揃っています。ヒゲは高感度、胸毛も高感度、頭髪も高感度(注)ですが、それ以外は普通くらいです。
毛母細胞は一定の周期で生まれて死んで、を繰り返しています。生まれる時は毛包内にある幹細胞から分裂してきますが、ここで毛周期の遺伝子エラーだけではなく、感受性にもエラーが出ることがあります。高感度の毛包に変異してしまうと、そこだけ妙に元気のいい毛になるようです。
ここで、毛周期の乱れと感受性エラーが重なるとどうなるかと言うと、妙に元気のいい毛が周りの制止を振り切って規格外のサイズにまで成長する、つまり鼻毛リミットブレイク、鼻毛真拳奥義伝承者になってしまう…というわけです。
では女性はどうかというと、毛周期の乱れは性別関係なく起こるため、年を取ると暴走し始める毛は出てくるそうです。ただ女性ホルモンであるエストロゲンは体毛を抑制する効果があるため、伸びていても目立たないことが多く、知らないうちに切れたり抜けたりしていることが多いそうです。
また、眉毛や鼻毛などを男性より手入れをすることが多いので、成長期の長い毛が混ざっていても気づく前に刈り取られており、気づかないことも多いようです。
ジヒドロテストステロン(DHT)は頭髪にも高感度だが…?
DHT はヒゲ、胸毛、頭髪(注)に高感度です。高感度なので男性ホルモンが作られて毛包で DHT に変換されると、生産工場のスイッチを押して、出力レバーを全開にしてガンガン毛を伸ばします。超オス!って感じがしますね。
では頭髪(注)はどうかというと…ここも高感度に反応するんですが、なんと出力レバーをマイナス方向に倒します。ちょ、おま、なんてことを!するとどうなるかと言うと、髪の毛の生産工場が休止状態になってしまいハゲてしまいます。
しかも、頭髪全部が高感度なのではなく、おでこのあたりと、つむじのあたりに集中しています。側頭部や後頭部は違うので、ハゲ始めてもそこだけ残るわけです。さらに、ジヒドロテストステロンの生成はすべての男性に起こるので、これが生成される思春期頃からすでにハゲへのカウントダウンが始まっています。
ただ、毛包側の感度次第であり、低感度の毛包を持っている人はハゲにくく、高感度の人はハゲやすいとなっています。また、DHT の影響は蓄積ダメージでの遅延型のため、効果が出るのが 10 年〜20 年後になることが多いです。仮に 15 歳で DHT が生成され始めたとすると、25〜35 歳ごろからちょっとずつ、おでこや頭頂部の生産工場がお休みになっていくことになります。薄毛が気になる男性の年齢と合致しますね。
毛の生産工場は休止期になっても、またそのうち再稼働します。しかし DHT の影響があると成長期が短くなり、すぐまた休みになってしまいます。これは田畑の作物とよく似ていて、田んぼに稲を植えて育て、秋にしっかり実らせて回収しますが、DHT の影響があると夏頃のまだ青い状態で成長が停止し、枯れてしまいます。次の成長期が来ても早めに刈り取られてしまうため、稲がしっかり育たず、細いままになります。
しかも毛周期を経るごとに DHT の蓄積ダメージが増えていくので、成長期がどんどん短くなっていきます。 「なんか細い毛が増えてきたな?」 と思って慌てて育毛剤を使ってみても、育ち切る前に刈り取られてしまうので意味がないという無慈悲さ。
ありがたいことに、この恐ろしすぎる DHT の効果を止める薬があり、皮膚科などで処方してもらえます。僕が行った皮膚科では「月 6,000 円くらいするよ?」と言われましたが…。
薬の効能についてはこちらの記事に書いてあります。
またこの蓄積ダメージですが、なんと薬を使ってもリセットできません。薬を服用している間だけ DHT の影響を減らすことができますが、服用をやめるとハゲ進行セーブポイントの続きから再開してしまいます。目とか歯と同じで、一度だめになってしまうと戻れないタイプです。
DHT の影響が強く、若いうちから薄毛になりやすい家系の人は 20 代頃からの服用で予防できるようですが、一生飲み続ける必要があるのでいろいろ厳しいですね。
読んでいてつむじが気になってきた方はこちらをどうぞ。
なぜ 1 本だけ妙に長い毛が生えるのか?
答えは 「毛周期の乱れ × 男性ホルモンの影響」 でした。中学生くらいから鼻毛がちょっと出てる友達がいましたが、30 代を過ぎるとああいう伸び方ではない、完全に鼻毛真拳を使いかけているような伸び方に変わります。「いままで別に出てなかったから〜」と油断していると大変なことになりかねない。男もマメに鏡を見て、お手入れしたほうが良いですね。
ちなみに、耳毛もヒゲと同じく DHT の感受性が高いです。ただヒゲよりしきい値が高いのか、若いうちは発現しません。しかし加齢でダメージを受け続けていくうちにリミッターが外れ、突然卍解するらしいです。……なん…だと…!?









