薄毛治療薬には「攻め」と「守り」がある

薄毛が気になって毛生え薬を探していました。「育毛剤 発毛剤 違い」で出てきたページを読んで、 「毛を生やすなら発毛剤」「キープするなら育毛剤」 というところまでは理解しました。
発毛剤には大きく 3 系統があり、それを解説します。参照する資料は「日本皮膚科学会ガイドライン 男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」です。 https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/AGA_GL2017.pdf
(今は 2025 年ですが、2017 年版が現時点での最新のようです)
まず簡単に資料の説明です
東京都文京区にある公益社団法人 日本皮膚科学会がとりまとめた、薄毛・ハゲ治療用のガイドラインです。
参加メンバーは国内の大学や皮膚科のお医者さんです。テレビや漫画で「研究結果を学会に発表する…」というシーンがありますが、あんな世界観です。
薄毛やハゲは見た目が悪くなるのでみんな嫌で、治す薬もいろいろ研究されてきて、有効な治療法もいろいろ見つかってきました。けれども、効果の薄い、または無効な治療を知らずに続けてしまっている患者もまだまだ存在するそうです。
2010 年にこの資料の初版が出て、それから 7 年経過してさらに研究が進んだので改訂版を作った、となっています。
数カ月〜数年単位で経過観察して、「これは確実に効く」というものから「ちょっと効く」「使わないほうが良い」まで、証拠となる調査結果をたっぷり紹介しています。
攻めの発毛剤「ミノキシジル」: 推奨度 A.行うよう強く勧める
ミノキシジルはもともと「ロニテン」という名前の血圧降下剤の内服薬として売られていましたが、 飲んだ患者に毛が生えてくるので毛生え薬になった 、という変な歴史があります。
効果は折り紙付きで、次のような感じです。
2%および 5%ミノキシジル液を比較したランダム化比較試験は 2 報あり 49)50),そのうち症例数が多い 393 名の男性被験者を対象とした,観察期間 48 週までのランダム化比較試験において,脱毛部 1 cm2 内の非軟毛(nonvellus hair)数のベースラインからの増加は,プラセボ群が平均 3.9 本,2%ミノキシジル群が平均 12.7 本,5%ミノキシジル群が平均 18.6 本で,5%ミノキシジル群で他の 2 群に比し有意に(対プラセボ p < 0.001,対 2% p = 0.025)増加した 50).
色々書いてありますが、 ミノキシジル塗って 11 ヶ月経過したら生えたわ(証拠付き) 、となっていました。
引用元: 脱毛症 Q1 - 皮膚科 Q&A(公益社団法人日本皮膚科学会)
ミノキシジルの効果は「攻め」と書きましたが、これは「休止期の毛根を再起動する」からです。毛根には成長サイクルがあり、薄毛の人は休止期になってしまう時期が長くなります。これを再起動して強制的に生やすのがミノキシジルです。
退行期、休止期の毛は細く弱っているのですが、 再起動するとこれが一度抜けて 、新しい細胞がセットされて成長期に入っていきます。
これはミノキシジルを使うと初期脱毛が起こる原因でもあります。
資料にもこう書かれています。
一方で,男女ともにミノキシジル外用初期に休止期脱毛がみられることがあり,これが外用中止につながる恐れがあるため,患者への説明が必要である 67).
Lee WS, Lee HJ, Choi GS, et al: Guidelines for management of androgenetic alopecia based on BASP classification-the Asian consensus committee guideline, J EurAcad Dermatology Venereol, 2013; 27: 1026―1034.(レベル II)
注意点
塗った所が赤くなったり、痒くなる場合もあるそうです。
守りの発毛剤「フィナステリド、デュタステリド」 推奨度 A.行うよう強く勧める
ハゲ、薄毛の原因は男性ホルモンと言われています。テストステロンとかですね。あれがパワーアップすると DHT という超オスなホルモンになります。これはヒゲの栄養になり、ヒゲがぐんぐん伸びます。 その代わり頭髪には「もう休んでていいよ」となぜか伝えるので、ハゲになります。
フィナステリド、デュタステリドはこの DHT の生成を抑えます。DHT が減れば「もう休んでいいよ」という余計な一言が出なくなるので、毛が抜けなくなるという仕組みです。
積極的に生やすというよりは邪魔者を排除する「守りの発毛剤」となります。
別の 801 名の「日本人」男性被験者を対象とした観察研究において,フィナステリド(1 mg/日)5 年間の内服継続により写真評価において効果が 99.4%の症例で得られた 28).40 歳未満の症例,重症度の低い症例でより高い効果を示した. さらに,フィナステリド(1 mg/日)を用いた,27 名の男性被験者を対象とした観察期間 6 カ月の観察研究において,患者の Quality of life(QOL)を示す Visual Analog Scale(VAS)や Dermatology Life Quality Index(DLQI)は 21.4 から 44.8(P < 0.0001),5
試験結果は良好で、 1 年弱とか半年見てだいたい生えた!3 年とか見てたらもっと生えた!(というか抜け毛が減って生き残りが増えた) となっています。
注意点
男性ホルモンに作用するので、女性には胎児への影響もあり、使用は忌避されています。
また、男性ホルモンへの作用からか前立腺がんの検査に使う成分の値が半分になってしまうので、血液検査の際は注意が必要です。検査用紙の表紙に「発毛剤を服用しているかどうか」みたいなチェック項目を見たことがある方は多いと思いますが、あれです。
フィナステリド、デュタステリドどちらも効果は似ていて、後発のデュタステリドの方をよく目にするかもしれません。「ザガーロ」という名前で売られています。フィナステリドの方は「プロペシア」という名前で売られています。
補助の発毛剤「アデノシン」推奨度 B.行うよう勧める
毛母細胞の増殖をサポートしたり、毛の成長期を延長する効果があります。ミノキシジルほどではないですが血流も良くします。
試験では半年ほど観察して、毛はちゃんと太くなるし発毛効果もある、という結果が出ています。
0.75%アデノシン配合ローションは男性型脱毛症の治療薬として市販されている 5%ミノキシジルローションと同等の有用性があることが示唆された 81)
ただ、ミノキシジルのように「毛根の再起動」はしないため、サポート的なポジションになります。
補助の発毛剤「カルプロニウム塩化物」推奨度 C1. 行ってもよい
「カロヤン」の名前で売られている成分です。アデノシンと同様に血行促進効果があるので育毛、発毛効果はややあるようですが、劇的に改善とまでは行かないようです。ただデメリットもそれほどなく、古くから使われているため、リストに載っていました。
血行促進効果を利用して、他の治療薬と併用して円形脱毛症や白斑などの治療にも使われています。
リスクとリターンの合わない発毛剤「ミノキシジル(内服用)」推奨度 D. 行うべきではない
推奨度 D は「行うべきではない (無効あるいは有害であることを示す良質のエビデンスがある)」というステータスです。
ミノキシジルはもともと高血圧の薬であるため、内服薬でした。心臓や腎臓に負荷をかけて全身の血圧を下げる効果があり、 その副作用のひとつとして発毛があります。 他の副作用には次のようなものがあり、心臓周りの症状が多いです。
- むくみ
- 体重増加(水分保持)
- 心拍数増加(頻脈)
- 動悸
- 息切れ
- 胸痛
- うっ血性心不全
- 心膜炎
塗り薬の方のミノキシジルが「かゆみ」程度だったのに対し、こちらはちょっと物騒なものが多いです。低用量の摂取ならこれらを起こさず、「平気に見える人」もいます。年齢や体質、血圧、持病、飲み合わせによって変わるので、リスクのある人は避けたほうが良いでしょう。リスクの少ない人もやはり積極的に服用しないほうが良く、その理由は心臓や血管への作用のため自覚症状が軽く、見逃されやすいからです。
推奨度 D になっている理由
ガイドラインで禁止に近い扱いなのは、次の 3 点からです。
- 薄毛治療として承認している国がひとつもない
- 長期の安全性データが不足している
- 心血管系の副作用が一定割合で起きる
「危険だから即アウト」というよりは、 “医療として責任を持って勧めるには材料が足りない” という判断になっています。リスクの内容もわかっているため、治験が積極的に進んでいるわけではなく、現状は薄毛治療として承認される流れは見えていません。
根本治療としての相性は悪い
薄毛の原因は DHT による毛根サイクルの異常であり、休止期になった毛根を起こすだけでは足りません。
これは例え話ですが、毛根は畑に植えられた作物に似ています。種を植えて、土壌を整えて水をやると大きくなるが、そのうち寿命が来て枯れます。枯れた状態で放置されるのが休止期です。また、寿命が来る前に害虫がついたり、病気になって枯れることもあります。これが DHT の影響です(実際は DHT は害ではないのですが、頭髪に対しては抜ける方向に作用するので、こう表現しています)。
毛根サイクルが短くなっている場合は DHT を止めないと意味がなく、ミノタブだけを利用するのは、害虫や病気を無視して種を植え続けるようなもので、根本的な治療にはなっていません。
まとめ
毛生え薬の種類とその効果について、いかがだったでしょうか。僕も調べる前は「最新のものが一番効くんだろう」「強さの順に 1 列に並んでいるんだろう」と思っていましたが、実際は効能に違いがあり、攻撃魔法、守備魔法、補助魔法、のようにカテゴリーが違いました。
昔は血行促進=毛髪も促進、と考えられていたようですが、今では寝ている毛根を叩き起こして再起動したり、ホルモンに働きかけて原因を根本から断つ治療法が存在します。また、従来からある血行促進系も歴史があるため、ものすごくプラスではないが、マイナスの部分もない、つまり気休め〜ちょっとは効果がある、精神衛生に良い、みたいな扱いで残っているものもあります(保険が適用されるものもあります)。
塗り薬版のミノキシジル+フィナステリド/デュタステリドの組み合わせでも十分にエビデンスがあるため、まずはそちらを使うのが安全で確実でしょう。
僕は塗る方のミノキシジルを使って回復しました。こちらの記事に詳しく書いています。
日常ケアの見直しはこちら。
つむじハゲを判定する方法はこちら。






