最もポピュラーな漢方薬として知られる葛根湯、おそらくどの家庭にも置いてあると思います。うちも子供の頃からなじみがあり、今でもストックを切らさないよう薬箱に入れてあります。
葛根湯といえば「風邪のひき始め」と「授乳中の乳腺炎対策」などで知られていますが、最近こんなツイートを見つけました。
ロングライダース6.0で裏猫さんが「足つった時に葛根湯飲んだら治った」って書いてて間違いかなと思って調べたら、葛根湯にも芍薬甘草湯が入っていたので間違いではないことをご報告しておきます。
— 隊長 (@frecce) February 26, 2016
えっ?足つりにも使えるの?もしかして万能薬?と不思議に思ったので調べてみました。
まずは葛根湯に入っている生薬について調べる
いつものようにWikipediaを開くと、葛根湯のページから各生薬のページにリンクが貼られていたので、順に見ていきます。
葛根湯 – Wikipedia
葛根(クズ)
ページの上の方にいきなり「クズ」って出てくると自分に言われてるみたいで「ウッ」となりますね。
クズは長いツルが特徴的ですが、食用や薬になるのは根っこのほうなんだそうです。根っこが芋のように大きくなるので、そこからデンプンを取って食用に使われてきました。Wikipediaには「古来より」とありますが、食用の歴史はかなり古そうです。
クズは漢字で書くと「葛」で、その根っこだから「葛根」と書いて「カッコン」と読むんですね。発汗作用と鎮痛作用があるそうです。
葛根湯という名前にもなっているくらいなので、配合されている成分の中で一番多いです。
麻黄(マオウ属)
カタカナで書かれると異世界転生モノみたいな感じがします。学名だと「エフェドラ」となっていますが、気管支拡張剤や交感神経興奮剤として使われるエフェドリンという成分が含まれているからこの名前が付いているそうです。
エフェドリンは風邪薬にも使われていますが、興奮剤の効果を利用したドーピングにも使われていたことがあるそうで、わりと最近の事例ではこんなこともあったそうです。
日本の柔道選手・田知本遥、緒方亜香里は、2015年2月のドイツでのグランプリ大会を、アンチ・ドーピング規程に抵触する恐れがあるとして欠場した[7]。日本から持ち込み服用した風邪薬に、メチルエフェドリンが含まれていたためだ。強化選手の指定を解除することになり、指定除外期間によっては2016年のリオデジャネイロオリンピック出場が不可能となる。
エフェドリン – Wikipedia
エフェドリンから覚せい剤も作れるらしく、ちょっと危ない成分ですね。
また、「エフェドラ」というダイエット薬にも使われていたそうですが、心臓トラブルや薬物依存症などの副作用を指摘され、販売が禁止になっているそうです。
そんな魔王っぽいエピソードを持つ麻黄ですが、生薬ではそんな濃さで使わないので、鼻づまり解消、気管支拡張による喘息への効果、興奮剤による発汗作用などが期待されます。
桂皮(シナモン)
経皮と書いてシナモン…、まったく予想外でした。シナモンって子供の頃はダメでしたが、大人になってからは大好きになりました。香辛料ってクセになりますね。
世界最古のスパイスの1つといわれ紀元前4000年ごろからエジプトでミイラの防腐剤として使われ始めた。
と、世界最古らしいすごい使われ方が紹介されていました。シナモントーストはミイラの香り…。確かに香りが強いし防腐剤っぽい感じもします。実際にシナモンから抽出される成分から殺菌剤、防虫剤も作られるそうで、古代人の使い方は間違ってなかったんですね。
生薬としては体を温める作用、発汗・発散作用、胃を丈夫にする作用があり、漢方薬でもよく使われているそうです。なんか発汗作用の生薬多いですね。
ここで「胃を丈夫にする作用」が出てきましたが、意外なところでもシナモンが使われていました。
ロキソニンなどの鎮痛剤は胃を荒らしてしまう物が多く、病院で処方される時には胃を守る薬も一緒にもらえます。
バファリンなどの市販薬にはそういった薬が付いてこないのですが、銭湯桶でお馴染みの「ケロリン」には入っていました。鎮痛剤+胃の保護剤=ケロリン、なんだそうです。
医薬品のケロリンは粉薬で、ニッキ(桂皮)を配合しているため、若干八つ橋っぽいにおいがします。味は少し苦いですよ。 #テルマエロマエ
— ケロリンの内外薬品株式会社☆公式☆ (@KERORIN_PR) 2013年4月20日
ケロリン、桶のイメージが強すぎて正体を知らなかったんですが、薬だったんですね。内外製薬という会社から出ている鎮痛剤でした。シナモン入りなのでにおいがあり、錠剤も出ていますが昔ながらの粉末タイプが人気みたいです。
僕はたまに頭痛になるのでEVEを愛用していますが、切らしたらケロリン買ってみようかな。頭痛のエピソードについてはこちらに書いてあります。
また、シナモンの木は観葉植物としても買えるみたいです。葉っぱからシナモンの匂いがするそうで、ちょっと気になり始めてます。大きい物を買えばシナモンスティックも作れるのかな?
シナモンといえばシナモンロールですが、僕はドンクのシナモンロールが大好きです。あのデロデロに甘い感じがなんとも…。
芍薬(シャクヤク)
その美しさから「花の宰相」と呼ばれる芍薬。園芸でもたいへん好まれ、品種改良も進んでいるそうです。
生薬としては消炎・鎮痛・抗菌・止血・抗けいれん作用があり、多くの漢方薬に入っているそうです。
生姜(ショウガ)
やっと馴染みのある植物が出てきました。僕はショウガ焼きが大好きです。作るのも簡単ですし、食べると元気になる気がしますね。めちゃくちゃ簡単なレシピがクックパッドにあって、たまに作ってます。工程が2個しかないのですぐに完成します。
生姜はチューブを使うのがポイントです。砂糖やみりんも先に混ぜておいてかけるだけなので、どんなに料理下手でも失敗しません。タレを多めに作っておけばしばらく楽できるのもポイントです。
そんなクックパッドですが、ちょうど今日ニュースがありました。ちょっと前から創業者と現経営陣がケンカしていて、
現経営陣「みんウェだ、暮しの手帖だ、いろいろ広げてシナジーだ」
創業者「料理に集中しろ」
というやり取りをしていました。そして今日の取締役会で結論が出て、創業者の佐野氏が執行役を解任されてしまったのです。
無念の佐野氏、日経新聞でも「クックパッ・・・」という断末魔の叫びを残し、音声もここで途絶えています。
生薬としては発散作用(発汗させて熱を下げる作用)、健胃作用、鎮吐作用があるとされます。シナモンに似ていますね。食用としては匂い消しや風味付けとして使われますが、意外なことに殺菌作用はありません。以前書いたこんな記事でも検証しました。
生姜の旬は夏で、スーパーに行くと高知産の生姜が沢山おいてあります。しかもデカいんです。旬だからデカくて安い。でもそんなに毎日使い切れないよ、と冷蔵庫に入れっぱなしで干からびたりカビさせたりしてましたが、水につけるという保存方法を知ってからは無駄なく使えるようになりました。
瓶やタッパなどに生姜を入れて、全部隠れるまで水をいれるだけです。水はたまに変えたほうが良いのですが、ホントに長持ちします。お試しあれ。さすが料理情報満載のクックパッド、素材の保存方法も載ってて超便利です。
クックパッ・・・
大棗(ナツメ)
ナツメです。ナツメヤシは遠縁の別種らしいです。夏に芽が出るからナツメらしいです。なんて安直な。
木の部分は高級工芸品などに使われるそうです。固くて使うと味が出るそうで。家具や仏具とあるので、濃い茶色でツヤのあるあれかな?と思いながらイメージ検索したら想像したものに近いものが出てきました。
ナツメ 家具 – Googleイメージ検索
お茶いれとかお玉とかいいですね。ちゃぶ台まで行ってしまうと純和風の家になってしまいそうでもあります。
生薬としては強壮作用・鎮静作用があるそうです。副作用の緩和によく使われるとありました。
甘草(カンゾウ)
日本語のWikipediaがイラストだったので、写真ないかなと検索したら中国語のWikipediaが出てきました。自由なんとか百科全書、というんですね。維基百科はイキ…ヒャッカ?(ペディア?)当て字っぽいなぁ。
甘草はその名の通り、甘味料として使われるそうです。独特のクスリっぽさがあり、リコリス菓子やルートビアとかに入っているんだそうで。多分僕は苦手なやつです。
甘味成分のグリチルリチンが砂糖の50倍の甘さだそうで、食品添加物としても利用されています。パルスイートとかの原料なのかな?
生薬としては緩和作用、口の渇きを抑える作用があるとされ、多くの漢方薬に使われているそうです。また消炎作用や美白効果もあり、含有成分は化粧品や医学部外品にも使われています。なんて万能なんだ。
漢方には「基本方剤」というものがある
基本方剤である桂枝湯(桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草)に葛根・麻黄を加えたものである。
葛根湯 – Wikipedia
改めて葛根湯のWikipediaページを見てみると、上のように書いてありました。基本方剤の桂枝湯だけでも風邪のひき始めなどに効くそうですが、そこにカッコンとマオウを加えてさらに効果を高めたのが葛根湯なんだそうです。
ツムラから普通に出てましたね。書いてある効能も葛根湯とよく似ています。
葛根湯は喉風邪に効かないと言われるが、甘草湯なら効くらしい
甘草湯は漢方には珍しく、単一の生薬で作られた漢方薬なんだそうです。たいてい混ぜて作ってますもんね。甘草のWikipediaページには「緩和作用、口の渇きを抑える作用」程度の効能しか載っていなかったのですが、甘草湯のページを見ると
のどの粘膜を保護する働きがあり、のどの痛み(口内炎)、激しい咳、しわがれ声などに処方される。
甘草湯 – Wikipedia
と書いてありました。甘草って葛根湯にも入ってるんですが、分量が少なくてダメなんですかね? 葛根湯は発汗が目的だから、甘草湯ほど喉には効かないよ、ということかもしれません。
甘草湯に芍薬をまぜた「芍薬甘草湯」もある
喉の痛みを和らげる甘草湯に消炎・鎮痛・抗菌・止血・抗けいれん作用のある芍薬を混ぜると、こんな漢方薬になるそうです。
下肢のけいれん性疼痛(こむら返り)や、胃腸の激しい痛み等、急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛などに用いる。
芍薬甘草湯 – Wikipedia
突然の下肢の痙攣!なんで下肢…?と思いましたが、お腹とか背中とか腕とか手のひらってあんまり攣(つ)らないので、攣りに効く→攣るのは足(ふくらはぎ)が多い→足の攣りに効く、という説明になったのかなぁ…と想像しています。
この辺まで説明しているページがなく、下手したら漢方のバイブルにあたる「傷寒論」を見ないとダメそうなので、調査はこの辺にしておきます。とりあえず足つりに効くんだということで。
ここで元のツイートを見てみると
ロングライダース6.0で裏猫さんが「足つった時に葛根湯飲んだら治った」って書いてて間違いかなと思って調べたら、葛根湯にも芍薬甘草湯が入っていたので間違いではないことをご報告しておきます。
— 隊長 (@frecce) February 26, 2016
「芍薬甘草湯」って書いてある!そして葛根湯にも確かに芍薬と甘草が入ってる事がわかったので、足つりにも効きそうですね。配合されてる量によって効果の出方も変わりそうなので、ツムラのページにあった分量を引用してみます。
配合生薬 | 葛根湯 | 芍薬甘草湯 |
---|---|---|
日局カッコン | 2.68g | |
日局タイソウ | 2.01g | |
日局マオウ | 2.01g | |
日局カンゾウ | 1.34g | 3.0g |
日局ケイヒ | 1.34g | |
日局シャクヤク | 1.34g | 3.0g |
日局ショウキョウ | 1.34g |
葛根湯は芍薬甘草湯の半分程度の成分が入っていたので、それなりに効果がありそうです。上の人はスポーツ用途の雰囲気だったので、葛根湯にある「肩こり、筋肉痛」の恩恵にあずかれるかもしれません。ロングライド、肩凝りますからね。
ただし葛根湯にはドーピング検査に引っかかる「麻黄(マオウ)」も入っているため、レギュレーションの厳しいレースなどでは飲まないほうが良さそうです。芍薬甘草湯をいくつか持ち歩くほうが安心できますね。
ちなみに、全部の生薬に「日局」と付いていますが、日本薬局方(にほんやっきょくほう)の略で、調剤方法などが載った日本の薬剤師の仕様書というかバイブル的な存在なんだそうです。最後の読み方が「ほう」となっているのは歴史的経緯からだそうで、詳しいことはWikipediaなどを見てみてください。
脚つりにもっと良さそうなものがあった
足つりには芍薬甘草湯、または葛根湯。どちらも持っていない出先ではコンビニのドリンクコーナーにある葛根湯ドリンク、普通のコンビニには無さそうだけど足つりに効く「アルクラック」というドリンク剤もある…、という事を調べていたら、もっと良さそうなものがありました。
携帯しやすく飲みやすい、錠剤になった芍薬甘草湯 コムレケア
一般的に漢方は「ゆっくり、穏やかに効く」物が多いのですが、芍薬甘草湯は即効性があるんだそうです。さらにこの錠剤の説明文に、
4.日本薬局方芍薬甘草湯12gから抽出したエキスを全量(最大量)配合した満量処方です
Amazon.co.jp:【第2類医薬品】コムレケアa 24錠:ドラッグストア
という心強い一文が載っていました。「全量配合」の力強さ!成分的にもドーピングに引っかからないので良さそうです。
脚つりを先回りして予防する、梅丹本舗の2RUN(ツゥラン)
こちらは芍薬甘草湯の成分は入っておらず、代わりに足つりの原因になるマグネシウムとカルシウムが中心でした。他のミネラル成分も入っているため、夏場の熱中症予防に使っている人もいるそうです。
レビューを見るとマラソン、登山、トレラン、ロードバイクのレース、ヒルクライム、ロングライドなど、脚を酷使するスポーツに使用している人ばかりでした。完全にスポーツ向けサプリですね。
レースの前に1粒、レース中やレース後にも補給することで足つりを回避できるそうです。また、スポーツをしていないけど体質的に脚がつりやすい人も、寝る前などに食べておくと寝起きでこむら返りが起こさずに済むかもしれません。
まとめ
葛根湯からスポーツサプリまで来るとは思いませんでした。足つり対策ではスポーツサプリが一番よいと思いますが、手元にない場合は葛根湯で代用できるんですね。
葛根湯や桂枝湯は、興奮作用や発汗作用などを使って一時的に人間の抵抗力を上げてくれます。が、ドラゴンボールの界王拳的な側面もあり、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)は使用前に医師や薬剤師に相談してね、と注意書きが必ず書いてあります。だから、服用するタイミングが風邪のひき始めで体力がまだある時なんですね。
ちょっと寒気がするな、なんかいやな予感がするな、という時ならまだ間に合うので、悪化する前に葛根湯を飲んで、暖かいものを食べて早く寝ると、薬の効果を最大限に活用できるそうです。風邪をひきそうな時にぜひ試してみてくださいね。
後日追記
梅丹本舗の一部の製品からドーピング禁止物質が出てしまい、ニュースになっていました。
- 【重要なお知らせ】弊社製品からWADA禁止物質の含有が確認された件について|Meitan | 梅丹本舗
- 元選手が怒りの声、自転車連盟ドーピング問題「禁止物質想像せず」 (スポーツ報知) – Yahoo!ニュース
「ボルジオン」というステロイド系の成分が検出され、これが引っかかってしまったようです。上記のPDFに詳しく書いてありますが、自然界に普通に存在する成分で、筋肉損傷の治療にも用いられることがある成分とあります。大量摂取すると筋肉増強と、副作用で肝臓の負担などがありそうですが、梅丹本舗の製品を普通に食べる分にはそこまでの量を摂取できないようで、健康被害は存在しない、と書かれています。
リオのオリンピック、その次の東京オリンピックを控えてか「ドーピング」という単語に注目が集まり、テレビなどでも放送されています。梅丹本舗の取り扱っている商品ラインナップを見るとごく普通の伝統的健康食品屋さんっぽくもあり、悪気もなくちょっとかわいそうだなぁ…という気もします。
Twitterの方を見てみるとスポーツ報知の記事とは真逆の反応でした。どうも梅丹本舗は5〜10年ほど前から自転車競技のスポンサーになっていて、マイナーな競技の盛り上げ役というか、縁の下の力持ちといか、ずいぶんサポートしていたみたいですね。実際にレースに出ている人などもよく飲んでいる的な発言が見られます。
ドーピング検査の対象になるのはオリンピック選手などの超一流アスリートくらいなので、市民アスリートレベルには関係ないそうです。とはいえ、超一流レベルの人たちが、自転車業界で梅丹本舗をよく見かけるし使ってる人もいるから…と摂取してドーピングに引っかかってしまうのもかなり悲しいことなので、スポンサー企業としてはもっと早いうちに検査しておいて欲しかった…とは多分みんな思ってるんでしょうね。
雰囲気的には「梅丹本舗あっての自転車業界」みたいな空気も感じ、スポンサー降りちゃうなら一般人の俺らで買い支えよう的な愛され方をされています。うまい所に着地できると良いですね。